いつしか日記

日々の日記。圧倒的に仕事の話。

走れモラル

20220121


金曜日

 

 

 

事件があった。

 

 

 

 

まず朝から、"隣の"が廊下の壁にへばり付いてる奇妙な姿を目の当たりにした。

これは事件では無い。

事務員のTナカの打ち合わせが終わるのを待ってるらしい。

 

Tナカは現在発送の打ち合わせ中。

 

 

 

打ち合わせしてる部屋に入ると、みんなが取締に憤慨していた。

 

発送の打ち合わせではなく愚痴大会中だった。

これは事件。

 

 

 

 

 

 

事件は昨夜、夕方の休憩後から起きたという。

 

NOが休出したいという件で、

Oは良いけどNは休出しちゃ駄目!と取締に言われたらしい。

 

濃厚接触者で2週間休んでたOは休出する意味が分かるけど、

通常通りだったNはこれ以上休出しないで、と。

 

嘘でも「そんなに仕事して体調が心配よ〜」とか言っとけば良いのにね。

 

 

 

鍵開け職人(鍵を持ってる管理者の意)は営業の小町にお願いしていたけど、

代わりに取締(経営者)が来ると言い出し、

殿(社長)に事情を説明するのはボスに任せると。

 

 

 

 

 

それが今朝になり、急に取締が鍵開け職人の任を降りると言い出した。

数時間で退任の意を示した。

 

 

取締は乱心か?

 

 

 

 

取締はボスに依存的であるが、保身の為ならば平気でボスを差し出す事が出来る人。

ボスはそういう邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

 

取締はこの件が殿の怒りを買ってしまうのではと思い至り、関わる事を放棄したのだ。

つまり説明する人(ボス)は叱られると予想している。

 

ボスがセリヌンティウスならば、

勝手に身代わりにされた事を恨みながら、確実に処刑されていただろう。

しかしセリヌンティウスにはあらず。

 

 

 

 

 

ボスは激怒した。

 

 

 

ボス「『ボスさんから事情説明して』って言われたけどさ、取締さんも事情知ってるだろ!って。

なんで休出しないあたしから説明するのよ!

『Oヤンと小町さんが休出するんで』って、あたしが!?」

 

 

 

妄想だけど、取締側からしてみると、

昨夜ボスから愚痴を聞き、依存してる取締はボスを困らすNOの事が許せなかった。

それだけであからさまに態度に出すのが取締。

 

ボスは想定してなかった嫌な役を押し付けられて怒っている。

 

そう、NOやTナカを集めて話の中心にいるが、

よくよく聞くとボスは自分への仕打ちについて腹を立てているだけ。

 

ボスはコロッとNO側へ寝返っていた。

一致団結してるし、取締に愚痴ったボスが発端だと言う事は、黙っておこう。

でも日記には書いておこう。

 

 

 

 

 

ボスが激怒してるところに、取締が話を聞きに部屋に入って来た。

 

愚痴大会を匂わせずに打ち合わせのようなものを終わらせ、解散した。

 

 

 

自分の席にいただけのわたしは勝手にハラハラし、何か日常感が漂う話を振らなきゃという焦燥感に襲われた。

 

廊下の壁に奇妙な人がいるとTナカに伝えた。

 

 

わたしは隠したい事があると口数が多くなるタイプなんだろう。

 

 

 

 

 

 

廊下で立ち話する隣のとTナカが見えるが、Tナカがイライラしている。

まとも過ぎて特徴的なあだ名が付けられないTナカを立ち話でイライラさせるなんて、

やっぱり隣のは只者じゃないなと感心した。


 

 

 

 


 

 


Oが今朝の取締の発言を営業の小町に報告。

 

殿に説明するのは小町(管理職)からして!とお願いしていた。

 

 

小町「でも俺は朝の話聞いてないですよ。」

O「そうでしょ?でも取締さん自分から殿に言うのは嫌みたいで、ボスさんに振っちゃって」

小町「よくわかんねえ」

 

だな。

 

O「小町さんから殿に説明して貰ってもいいですか?取締さん殿に言うの嫌みたいなんで」

小町「なんなんだよ」

 

俺だって嫌だよな。

 

O「昨日の話では小町さんは出なくていいって言ってたけど、取締さん今日になって『あたしは出ないから』って」

小町「俺言われてねえよ」

O「そうでしょ?どうしたらいいんだろう」

 

 

呆れた取締だ。生かして置けぬ。

 

 

 

 


困ったOはボスを呼んだ。

ボスが来たら小町も態度が変わった。

物分かりの良いおじさんになった。

 

 

ボスは面倒臭いのは嫌いで、殿の性格も把握している。

自分も休出するから3人まとめて経理上の休みをスライドしてもらおう!と提案。

元々去年の分の休出のスライドだったが、それを更にスライド。

ややこしい。

ややこしいから3人まとめての処理の方が殿も分かりやすくて良いと言ってくれるはずだと。

 

殿は脳に負荷がかかるとすぐ激昂するから話はシンプルにしといた方が良いに決まっている。

 

こういう妥協と頭の回転の速さが素晴らしいボス。

本当に凄いと思う。

 

 

事の発端がボスで無ければ。

 

 

 

 

 



 

 

仕事をしてると取締が部屋に入って来た。

 

取締「今朝、材料倉庫行ったら暖かいなあって思ったの。暖房が26度で入ってたの。

誰がこんなに上げたのかなって、醤油おじさんか隣のさんのどっちかだなって。

朝来てから寝てるって言ってたし醤油おじさんかな?」

 

知らぬ。

知ってどうするというのだ。

 

取締「いきなり26度なんて暖房費ぐっと上がっちゃうよね。24度に下げといたの。

24度に下がってる!って気付くかな」

 

何が見たいというのか。

取締は、何か残虐な気持ちでほくそ笑んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

昼前。

 

話は変わって、一階の現場に行くと、醤油おじさんの「言い訳するな!」という怒号が聞こえた。

 

ランボーが2日前に機械に顔面強打してたらしく、目蓋が赤く腫れてるのを醤油おじさんが気付いた。

 

また事件のようだ。

 

 

 

安全衛生係の天気娘は、怪我の具合を間近で見て来てからというもの、顔面強打の跡が赤いアイシャドウみたいだとしきりに言う。

醤油おじさんはビジュアル系のメイクしてるのかと思った、と言っていた。

そのくらい綺麗にアイシャドウになっているらしい。

 

 

 

ランボーいわく、機械は止めてて、

顔を近づけて何か見てたらボタンを押してしまい、その仕掛けで顔面を強打したらしい。

それを黙って仕事を続けていた。

2日後に腫れてきて醤油おじさんに発見された。

 

 

ランボーは機械に髪の毛が巻き込まれても声を出さずに誰かが発見するまでそのまま。

指が機械で切断されても何でもないみたいにゴミ箱に捨てて仕事を続ける。

そんな人。

 

 

何かあったら会社は何してたんだ!になるからちゃんと報告しろ、と醤油おじさんは怒っているのだろうか?

 

 

 


病院へ連れて行くことにしたが、コロナの関係で事前予約制になっている所が多い。

しかもランボーはワクチンを打ってないから受けつけてくれるかどうか、という話にもなった。

 



 


天気娘が忙しくしていると、隣のが声をかけて来た。

 

隣のはわたしの元上司。

仕事ぶりと性格が低評価されて左遷された。

殿に「解雇にするから来い!」と言われてその場で耐えなければとっくにいなかったかもしれない人。

 

左遷される前から形だけの上司だとは思っていたけど、

隣のの方はまだわたしの事を部下だと思ってくれていて、何かと声をかけられる。

 

 

 

今回もまたいつものMACの買い替えの件だろうと予想したらやっぱりその話。

今はランボーのビジュアル系メイクの話題で持ち切りなのに。空気の読めない奴だ。

 

 

 

隣のは定年退職直前になり、ゲリラ勝負の数が増えた。

勝負ってのは突っかかってくるって意味。

 

結局は『あたしがいないとみんな何も出来ないんだから』という風に持って行きたいのが丸分かりである。

 

昔からそうやって暴走してる人だったからもう好きにさせている。

そして隣のが辞めた後に全部捨てよう、と話はついている。

 

 

ただ、今直面しているゲリラ勝負は同性が主なターゲットになっていて、女性陣が非常に迷惑している。

勝ち負けの話じゃ無いのに、満たされるまでしつこく突っかかって来るからだ。

自分が気持ち良くなる為に利用してくるからだ。

PCの買い替えの話やぞ。

 

 

隣の「今使ってるのもう7、8年経ってるんじゃない?」

わたし「7年くらいですかね」

隣の「購入時期書いてあるだろうが!」

 

答えはほぼ一致してたのに怒り出してしまった。

わたしが例え「バナナくらいですかね」と答えても何でも良くて、

予め用意しておいた文句を吐いただけだろう。

 

この会話何度もしてるから、わたしも言い方が適当だったかもしれない。

・・・いや?今日はちゃんと答えた方。

 

 

隣のは、周りは自分より劣ってると思ってるのに勝敗を付けたがる。そういう人。

劣等感があるんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

隣のを放って置いたら午後にはMACの見積りを取るように指示をして来た。

 

まだ買うと決めてないのに良いのか聞いたら、

「見積もりは無料だから良いんだよ。業者もサポートの契約してるのに全然来ないだろ?

もっと来させないと駄目だよ」

 

サポートしてもらいたい事が無いんだから来社されても困るのだが。

隣のはケーブルがちゃんと刺さってないだけで業者を呼んじゃうくらい気軽に使っていたから業者がなかなか電話に出ないようになってしまった。

感じも悪くなっていった。

 

 

これから信頼を回復しなければならないというのに。

 

しかし、隣のを無視しても暴走し始めるだけ。

 

 

 

 

 

 

 


夕方。

 

ビジュアル系ランボーを病院に連れていったのは殿だった。

 

 

ランボーは最初、「転びました」と話していたという。

醤油おじさんが「どこで転んだんだよ」と聞くと、

「・・じゃあ本当の事を教えましょう」と言って機械にぶつかった事を教えてくれたらしい。

 

よく分からないでしょ。

わたしもビジュアル系の世界観には疎い。

 

 

 

 

で、帰って来た殿がボスにぜーんぶ話す。

 

殿「あいつ独特な匂いすんな。車の中くせーよ」

ボス「週末ですからね」

殿「保険証もなかなか出てこねーし住所書くのも遅いしよ、仕事もそうなんじゃねえか?」

 

殿が目を背けてるだけでみんな知ってる。

 

殿「待合室じいさんばあさんばかりだったけど、あいつ痴呆症のばあさんと変わんねーよ、馴染んじゃって」

 

 

ランボーは怪我も気にしなければ見た目も気にしない人で、

風呂は使わずキッチンで髪を洗い、それも週1回だけと決めているらしい。

だから週末になるにつれて臭いがキツくなって来る。今日は金曜日だ。

着る物も生地が傷んで透け透けで、穴が開いてても気にしない。そういう人。

 

恐らくケチとかじゃなくて、お金があるなら全部宗教に注ぎ込むから、自分を無くしてるのかもしれない。

 

 

殿の言わんとしてる事は分かる。

 

 

 

ここはお金を持ってる殿がマントを捧げる役ではなかろうか。

 

 

殿が、緋の服をランボーに捧げた。

ランボーは、まごついた。

佳き友は、気をきかせて教えてやった。

ランボー、君は、生地が擦り切れてるじゃないか。早くこの服を着るがいい。殿は、ランボーのモラルの低さを、皆に見られるのが、たまらなく恥ずかしいのだ。」

 

 

ランボーは「あぁ、ありがとうございます。」

と服を受け取り、その場では着ずに、リサイクルショップへと向かった。